昔から私たち日本人は、愛情を持って永年使い続けた道具には魂が宿ると信じてきました。大量生産と大量消費の時代に生きる私たちは、一つのものを“永く大切に愛用する”という考え方を忘れてはならないと思っています。髪を切るという作業を見つめ続け、“髪”や“手”と“ハサミ”の関係を考え、素材の選定からデザイン、生産に至るまで自社で研究、開発を続けてきた結果、私たちは一丁ずつを手で丁寧に造ることにこだわります。ミズタニは、何世代にも渡り職人から職人へ引き継がれてきた伝統、情熱、プライド、技能を忘れることなく製品をつくり続けています。規格化され機械で作られたものではなく、一丁一丁を鋼から手で削りだし丁寧に仕上げられた“ふぞろい”だけど“温もり”を感じ、使い込むほどに愛着のわくミズタニのハサミたち。上のハサミの写真は創業者が造ったハサミを一人の理容師が30年以上の年月、研ぎながら先端が細くなるまで使い込んだハサミです。より永く愛着を持って使っていただくこと。それが私たちミズタニのハサミ造りの喜びです。
ミズタニはハサミづくりの長い歴史と伝統に誇りを持っています。1921年東京・浅草で最初のミズタニが生まれたのは、創業者自身がより良いハサミが欲しいという情熱と必然からハサミを設計・創造したのが始まりでした。“切るだけのハサミ”に満足しなかった彼は“使いやすく切れるハサミ”を飽くことなく追求した結果、使い手たちの支持を得ました。私たちは受け継がれてきた伝統技術にさらに磨きをかけ、より良いハサミを造るための時間と手間を惜しまない忍耐と情熱、そして強い意志を持ち続けています。
素材へのこだわりを製品に発展させるまでには時間がかかります。そのためには多くの障害に挫折せず、継続する持続力が必要となります。常に新しい鋼材をテストし、そのさまざまな問題点を克服することで“ステライト”や“ダマ”そして“ナノパウダーメタル”といった画期的な鋼材を製品にすることができ高い評価を得ています。ミズタニではアイディアは、実行に移された場合にのみ価値があると考えます。耐摩耗性にすぐれ高温やさびに強くなる“コバルト”、粘り強さを高め永切れをさせる“モリブデン”、鋼の組織をきめ細かくし、しなり強さを増し摩耗にも強くなる”バナジウム”といったレアメタル(希少金属)。ミズタニの歴史は、それらが適切に添加された最もハサミに適した合金鋼を探し求めてきた歴史とも言えるのです。
手造りだからできること。素材とクラフトマンシップの必然的な融合。より良い品質を追求しこだわり続けることが、私たちを手造りに向かわせるのです。職人の手の中で素材に無理をさせず、ゆっくりと誠実に一歩ずつ完成に近づけて手で仕上げること。それは時間とそれを造るための手間を惜しまないということです。あわてて無理に造った物の命は、ゆっくりと愛情をこめて仕上げられた物にはかないません。ミズタニでは何世代にもわたり職人から職人へと受け継がれた伝統、情熱、誇り、忍耐、技能を忘れることなく一丁一丁のハサミを丁寧に時間をかけて造り上げる“手造り”にこだわって造られています。
あたらしいハサミを造る際に、使い手は何を必要としているのかを考え、機能、品質、美しさをいかに統一するかをテーマにしています。職人の仕事は、ハサミに命を吹き込む作業だと考えています。造り手の情熱が手に取るように伝わってきてはじめて美しい存在になるのです。すべてのモデルは細部まで細心の注意をはらってデザインされ、情熱と精巧さを持って開発されます。「機能・品質・美しさ」そのひとつが欠けてもミズタニのハサミではありません。数値だけでは割り切れない製品の持つ温もり感、ここちよい使用感、 持つことの喜び、使うことの楽しさといった物質を超えた付加価値までもミズタニはデザインに求め続けています。
同じシンプルなハサミでも髪型やファッションとともにハサミも変わっています。ここにあるハサミはメガネタイプですが、時代と共にデザインも変わってきました。例えば70年代製の4.5インチはサッスーンカットが流行った時代のものです。60年代製のハンドルが長いタイプは昔のオカッパ型の流れを汲んでいます。又、60年代製のリーフタイプは現在のアクロリーフやアクロリーフワイドの原型になっています。2006年発表のNew Pixyはオーガニックフォルムで立体感のあるハンドルになっています。一見シンプルなメガネタイプですが、ハサミの基本スタイルだからこそ時代にあったデザインに変わってきたのです。2006年発表のNew Pixyや2011年発表のSTELLITE 1シリーズ、2011年発表のACRO TYPE M シリーズはオーガニックフォルムで立体感のあるハンドルになっています。そして2014年新素材ナノパウダーメタルのスウォードMBシリーズが発表されました。一見シンプルなメガネタイプですが、ハサミの基本スタイルだからこそ時代のヘアースタイルにあわせてハサミも変わってきたのです。